muni art award 2023 受賞作品
厳正なる審査の結果、8名のファイナリストの中から『muni Art Award 2023』グランプリは、藤原彩芽様、準グランプリは泰樂瑠花様に決定いたしました。
審査員一同、ファイナリストの皆様との面談の後、様々な面から時間をかけて審議を行いました。
★グランプリ/土方明司賞:藤原 彩芽
・準グランプリ:泰樂 瑠花
・ファイナリスト/池永康晟賞:小田川 史弥
・ファイナリスト/諏訪敦賞 :王 詩晨
・ファイナリスト/井浦歳和賞・小暮ともこ賞:遠藤 仁美
・ファイナリスト/高島匡夫賞:山﨑 結以
・ファイナリスト:佐東 ヒロキ
・ファイナリスト:和田 竜汰
・田中千秋賞:髙橋 侑子
本年度のグランプリ・ファイナリスト・審査員受賞者による
『muni Art Award 2023 展』を銀座 ぎゃらりい秋華洞にて開催いたします。
会期:2023年10月27日(金)~11月4日(土)
藤原彩芽
Ayame Fujiwara
グランプリ
土方明司賞
藤原彩芽「大きな犬を捕まえる」
(変形パネルに白亜地、油彩)
作品コンセプト
他者の心に直接触れることはできないと思う。でも諦められない。人間の中に入り込みたい。心を共有できると思える存在が欲しい。
この気持ちが執着、依存、その他諸々の不健康だと思うと、余計にひとりぼっちになる。
絵の中で他者の役割が犬である理由はわからないけど、人間の形にこだわってるのではないのは確か。
色々筋が通ってないかもしれない。でもいつも私が思っていることだから、思いを込められると思った。
審査員コメント
作者はこの作品のモチーフについて、他者との関係性、
信頼、共有、共感にあるという。犬は他者のメタファー。
その意図を表現するには、まだ粗削り。もっと自己の内面世界を見つめ、
余計なものをそぎ落とす必要があるだろう。それにより、作品世界の深度が増す。
フォルムの自在な扱いも面白いが、こちらも未完成。
流動的なフォルム、構成は効果的なのだが、統一感をもう少し意識しても良いのでは。
しかし、独特のヴィジョンと
それを伝えようとする積極的な姿勢は評価できる。
ダークな色調とシュールな雰囲気がマッチしている。
これからの伸びしろに期待するところです。(土方明司)
本人コメント
この度はグランプリと土方明司賞に選んでいただきありがとうございました。自分を評価、応援してくれる人がいると感じられる経験は、心のお守りになるのでありがたいです。
また、今回のために友達や先輩方に最終審査の練習に付き合ってもらったり相談に乗ってもらったりしました。ありがとうございました。これからもたくさん絵を描きたいです。
藤原彩芽
2001年 宮城県生まれ
2020年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻入学 現在第四学年在籍中
2022年 CAF賞2022 保坂健二郎審査員賞受賞
泰樂瑠花
Ruka Tairaku
準グランプリ
泰樂瑠花「Dog in the Dog」
(oil acrylic canvas)
作品コンセプト
輪廻をテーマにした作品。
来世を見る犬。来世に居る犬。
「今世はもう遅いから来世やりたいこと」が14歳の頃、沢山あった。医者になりたい。画家になりたい。自衛隊に入りたい。
あの日、北朝鮮のミサイルで自身の身近な死について実感しなければ、自分の中にある理想の来世で留めていたことを、こうして実践することもなかっただろう。
私にとって犬というモチーフは「限られた自由の中で自由を見出す生き物の象徴」である。そして家は、それらの安寧の地である。
本人コメント
準グランプリという賞を頂けて大変嬉しいです! 悔しい気持ちもありますが、ポジティブに考えるとmuniの初代準グランプリということもあるのでこの賞を頂けたことをさらに誇らしく思います。
最終面接の日は緊張で一睡も出来ず、逆にハイになって、気づいたら面接が終わっていました。色々なことが他の公募展とは少し違って、新しい経験で緊張もしましたが、とても楽しかったです。
これからも、良き作家になれるよう活発的に作家活動をしていきたいと、今回のmuniを通して改めて感じました。
今回お世話になりました、審査員やスタッフの方々に感謝申し上げます。
ありがとうございました!
泰樂瑠花
2022年 初個展「してん」
2022年 長亭GALLERY OJUN賞受賞
2023年 上野の森美術館大賞入選
ACTアート大賞最優秀賞受賞
北島輝一賞
小田川史弥
Fumiya Odagawa
ファイナリスト
池永康晟賞
小田川史弥「渡せなかったものや言えなかったこと」
(アクリル絵の具 キャンバス)
作品コンセプト
ここにはプレゼントのライオンの置物を渡す前なのか後なのかの判断がつかない場面が描かれる、それはどちらからのプレゼントかもわからない。
絵を見た人は奥に座る人物の表情や覗く子供など大小様々なモチーフを辿っていき状況を把握しようと試みる。
その過程で絵の前に立つ人は私の知らない思い出と絵を結びつけていく、誰にも言わない秘密をそっと思い浮かべる。
そして絵は私が描いた思い出とは違った思い出の場面になっていく。
審査員コメント
青年とは思い詰めることである。
孤独な夜が長いほど、青年の魂は思い詰めた目をして彷徨う。
現代では24時間誰とでも繋がることが出来るが、今日の青年にも孤独な夜はあるのだろうか。
小田川史弥の発光する彩色と溶けるような造形は一見軽妙にも見えるが、それゆえ夕闇の孤独と後悔を照らし出して見える。
一点ごとの過去作にはまだ先達の影響が垣間見えるが、この孤独が先達のものであるか小田川史弥そのものであるか知りたい気がした。
青年とは思い詰めることである、老人の私にとってその記憶は甘露である。
小田川史弥の不透明に透き通る飴細工のような造形を舌に含みながら、私もひと時思い詰めた目で彷徨うてみた。(池永康晟)
小田川史弥
1996 神奈川県生まれ
2018 東京藝術大学 絵画科日本画専攻 卒業
2020 東京藝術大学 大学院日本画専攻 修了
王詩晨
Shichen Wang
ファイナリスト
諏訪敦賞
王詩晨「See What I Saw」
(パネル、木屑、アクリル、電球、金具)
作品コンセプト
これは、数多くの記憶の断片に関するものであり、未知の表現でもある。過去の事実が現在の思考を触発し、現実では触れることのできないものを見つけ出し、捉えるようとするものだ。もし見えるものが過去の経験に基づいているのであれば、今この瞬間、私の記憶は私自身のものだけではなくなってしまう。それは空白の鏡となり、それを見つめる私たち自身を映し出す。「見る」が私たちの過去を繁殖させる。現在と過去は、時間と空間の切り離せない血縁関係だ。
審査員コメント
中国、明代末期に景徳鎮で焼かれた、古染付と呼ばれる呉須で絵付けされた磁器がある。官窯では厳格な絵付けが求められるが、日本の茶人からの注文に民窯が応じた、厚手で肩の力の抜けた作風のものも存在し、古くから珍重されてきた。王詩晨の本意とは関係ないだろうが彼の絵画の描線や、くたりとしたフォルムには、古染付から私たちが受け取る自由さや洒脱さに通じる魅力がある。そのセンスにはひとつ抜けたものがあり個人賞に選んだ。
王詩晨は自分が生きる生活のエピソードと記憶、そして各人にとっての知覚体験がいつも個別的で独特であることから発想し作品を作っている。第二次審査の作品は本業とはいえない立体作品とあって、これのみで評価して良いものか審査員間で議論となった。第一次審査で大きな期待感をもって評価された絵画作品と併せて、最終審査では彼の思想の全容が明らかになることを期待している。(諏訪敦)
本人コメント
最終審査また審査員との対話の中で、私の提出した作品には助言と励ましの両方があった。自分の作品が他人の目にどのように映るかを対話の中で理解できるのは、非常に重要と思う。そしてロラン・バルトが、芸術は人々を結びつける社会的契約だと述べた。この「契約」とは単に作品を展示場に置くだけではなく、展示の中で作品が他人に共鳴を呼び起こす媒体となることを意味し、しかも前述のようなコミュニケーションを引き起こすこともある。ここで再度、社会へ自己を表せるこんな貴重な機会また受賞を与えてくださり、感謝いたします。
王詩晨
1995 中国福建省生まれ、東京在住
2018 天津美術学院 造形学部 油画コース卒業
2022 武蔵野美術大学 大学院造形研究科 修士課程油画コース修了
2023 武蔵野美術大学 大学院造型研究科 博士後期課程 作品制作領域在籍
遠藤仁美
1990年 埼玉生まれ
2009年 私立潤彼女子高等学校芸術コース 卒業
2015年 東京造形大学 造形学部美術学科 入学
2019年 東京造形大学 造形学部美術学科 卒業
遠藤仁美
Endo Hitomi
ファイナリスト
井浦歳和賞
小暮ともこ賞
遠藤仁美「wild boy」
(油絵の具、アクリル絵の具)
作品コンセプト
ある日、夢をみました。 そこには見たことがない美しい風景と父親になった私、知らない家族と森で遊んでいました。どこにでもある風景なのに、夢で見た景色はとても美しく、初めて見るような世界に感動しました。私は森で息子と二人で鬼ごっこをしてました。夢の中の息子は言うことを聞かないわんぱくな少年で遊びに夢中でした。そんな彼を追いかける道中、木々が自分の周りに次第に密集していくように感じました。いつも見ている木のはずなのに、恐ろしさを感じると共に、心が惹かれるものがありました。私はそこが天国なのかわかりません。この夢が今までみた夢の中で一番心地いいのですが、禍々しさと恐怖を感じる夢です。私はこの夢を見るたびに、楽園なのか楽園ではないかと考えてます。この世界を再現するため、様々な角度の線をレイヤーとして重さね、現実のようで夢の境界線を作りました。線の中に風景があり夢を見るたびに重なって消えていく儚い記憶の一部にある三つの風景や人物を組み合わせて三層構造で描いています。
審査員コメント
遠藤仁美さんの夢のイメージを巧みに捉えた作品。幾重のレイヤーと多様な描法で構成された手法を通じて、多次元の夢の表現が見事に描き出されています。その深遠なる探求精神と絵画に向かう真摯な姿勢は、私の心を揺さぶりました。私の賞は遠藤さんの卓越した芸術性と情熱を称えるものです。今後の遠藤さんの制作に大いに期待しています。(井浦歳和)
実際に見た心地よい夢の中に世界観を見出した遠藤さんの作品は、人のいる風景というシンプルな場面であるのに、織物のような技巧的テクスチャーと豊かな色彩によってある忘れ得ぬシチュエーションを繰り返し描いた末に、夢を体現するひとつの様式を獲得したと思います。異次元を暗示するようなベールで、移り変わるいくつもの場面がその様式で一つにまとまっています。届きそうで届かないぼんやりしたモチーフをよく目を凝らして見ると、驚くほど丁寧に描かれ、夢とは高感度・高解像度で見ているものだと気付かされました。現在はまだ特定の夢を追いかけていらっしゃるようですが、是非新しい夢にもどんどん挑戦して頂きたいです。(小暮ともこ)
本人コメント
この度はmuni Art Awardにおいて、ファイナリスト選出及び「井浦歳和賞」と「小暮ともこ賞」を頂き、大変光栄です。有難うございました。
これからも自分の世界をもっと突き詰めるよう、精進してまいります。今回の受賞に満足せずに自分の表現をぶれることなく貫いていきたいと思います。
山﨑結以
Yui Yamasaki
ファイナリスト
高島匡夫賞
山﨑結以「習い」
(絹、岩絵具、水干絵具、胡粉、膠)
作品コンセプト
自身の幼少期に撮影された写真を元に描いています。
偶然の人の振る舞いや、それによって瞬間的に生まれる人と人の距離感や関係性に関心があり制作をしています。
この絵は調理の場面ですが「子供が大人から習い、作る」という関係性に興味を持ちました。
他者と協力することで生活が成り立ち、進化してきた生き物である人間、ということが私は根本的に気になっているのだと思います。
本人コメント
この度は「髙島匡夫賞」にご選出頂けたこと、とても光栄に思います。
審査員の皆様からのお言葉に新鮮な刺激をたくさん頂き、自身の制作を客観的に見つめ直す良い機会となりました。
さらにいい作品がつくれるよう、これからも精進します。ありがとうございました。
山﨑結以
子供時代の写真の中に残る「人の振る舞い」や「偶然生まれた状況」への興味をきっかけに、記憶や集団心理、他者との関わりのなかで得ていく価値観の形成について考えています。
また、自身が影響を受けてきた日本美術を咀嚼し、現代的な日本画の表現を模索しています。
2021年 東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻 卒業
2023年 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画 修了
佐東ヒロキ
Hiroki Sato
ファイナリスト
佐東ヒロキ「Sunlight 3」
(Acrylic on panel)
作品コンセプト
アメリカのミニマリズムからの文脈ではなく、日本の田舎に生まれ自然と育まれた美意識(特に東山文化から生まれた侘び寂びに近い感覚)をもって日常の美しさを最近は目指して制作している。
佐東ヒロキ
1985年生まれ。京都芸術大学卒業。シェル美術賞2020角奈緒子審査員賞受賞作家。
元々はエレクトロニカやアンビエントミュージックなど電子音楽分野における楽曲の制作を行なっていたが、2017年ごろから絵画を中心とした造形芸術分野に表現の場を移行。ただそこに佇む現実感を、色面と空間の関係性・二次元と三次元の共存から研究している。
<主な展示>
2022年「Being there」galerie16
2023年「Texture of the city」TSUKIMI HOTEL
2023年「佐東ヒロキ展」アートサロンESPACE など
和田竜汰「愛玩動物販売所 -Dalmatian-」
(パネル、油彩、銀箔)
作品コンセプト
現代のS N Sに生きる人々を「犬」として描いた。デジタル社会の普及により人々のリアルがヴァーチャルなインターネットへと拡張したことで、国境や物質的な人物の所在の優位性が消滅しつつある様を、世界に分布する様々な犬種に例え、描いたのである。気に食わない他者に吠え、サービスの提供する「おすすめ」を快楽的に享受する。我々は今コンテンツに飼われているのではないだろうか。
和田竜汰
2000.6 北海道旭川市 出身
2023.3 東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 洋画コース 卒業
2023.4-現在 東北芸術工科大学 芸術文化専攻 複合芸術領域 在学
2022.3 月刊美術 Presents「美術新人賞デビュー2022」入選
2022.9 第43期 国際瀧冨士美術賞 (2022年)優秀賞
和田竜汰
Ryuta Wada
ファイナリスト
髙橋侑子「ガラス美術館」
(アクリル、油絵具、キャンバス)
作品コンセプト
去年の夏に松島に旅行に行きました。そこで訪れたガラスの工芸作品が並ぶ美術館を描いた作品です。館内は照明が落とされて暗く、鏡張りの壁面も多くミラーハウスのようで印象的でした。
審査員コメント
なにげない日常の風景を絵画的な快楽に転化するセンスが秀逸。東北芸工大での展示での注目株。今回は最終審査に残らなかったものの、絵画が絵画であることの自律性をきちんと直感的に掴んでだ色と形へのこだわりと技術は今後もっと注目されてよい。(田中千秋)
髙橋侑子
Yuriko Takahashi
田中千秋賞
高橋侑子
2023 東北芸術工科大学 芸術学部美術科洋画コース 卒業
2023 東北芸術工科大学大学院 芸術工学研究科芸術文化専攻絵画研究領域入学
<現在修士課程1年在学>